先日、ドロミテへ旅行に行ったのですが、ホテルを選ぶ際に非常に具体的な条件がありました。それは、高評価であること、ホテルの入り口からすぐにハイキングコースが始まっていること、スキーリフトに近いこと、そしてサウナが複数あるスパがあることでした。2年前なら、こうした条件を満たすホテルを探すのに、週末を何度も費やし、いくつものタブを開いては比較検討を繰り返す必要があったでしょう。しかし今年は、ほんの数秒で済みました。チャットボットに希望条件を伝え、候補リストを受け取り、予約を完了できたのです。
私のケースのように消費者の行動は急速に変化しており、それがデジタル上での「発見」のあり方を変えています。今年初め、MolocoはBoston Consulting Groupと共同で、業界別にAIによるディスラプションを定量化した調査結果を発表しました。この「AIディスラプションインデックス」では、「AIによるディスラプションのリスク」と「顧客との関係の強さ」という2つの軸に基づいて17の業界が分析されています。
各業界は以下の4つの領域に分類されています。
- 「破壊」領域の企業は顧客との関係が弱く、AIによるディスラプションが大きいため、最も脆弱な立場にあります。
- 「無防備」領域の企業は現時点ではAIによる脅威が比較的小さい一方、将来必要となる顧客関係をまだ構築できていません。
- 「激戦」領域の企業はディスラプションに直面しているものの、顧客との結びつきが強く、AIを搭載したアプリへと急速に進化している生産性向上アプリ企業が多くを占めています。
- 「安泰」領域の企業はAIによるディスラプションのリスクが低く、顧客と強力な関係を築いています。これは最も安全な領域です。

同調査から6か月が経過したところで、こうした変化がどれほど加速しているかについて調べることにしました。以下では、その結果について解説します。
AIが訪問を代替できる分野ほどWebトラフィックの減少ペースが速い
まず、「Googleゼロ」の現象がWebトラフィックにどのような影響を与えているのかを、より深く理解したいと考えました。そこで、主要ブランド156社のグローバルWebサイトにおけるトラフィックの2026年6月までの前年比を、インデックスの4領域と照らし合わせて分析しました。

当然のことながら、AIディスラプションの影響が大きい業界ほどWebトラフィックの減少幅が大きくなっています。ニュースは26%、教育は22%、健康・フィットネスは16%減少しました。共通して言えるのは、最も大きな打撃を受けている業界は、Webサイトでのコアサービスが「情報提供」であるということです。AIモデルが質問に答えられるようになれば、サイトへの訪問は途絶えてしまいます。一方、取引を軸とした業界は、これまでのところ比較的堅調に推移しています。旅行業界が、属している領域のトレンドに逆行し、Webトラフィックが減少していないのは、これが理由の可能性があります。
アプリの利用状況は、より高いレジリエンスを示している
次に、モバイルアプリのトラフィックと利用状況について、前年同期との比較に基づいて分析しました。ここでは、各業界の上位100アプリの月間アクティブユーザー数(MAU)を調査しました。
アプリにおけるAIディスラプションのレベルは、Webサイトほど高くはありません。

実際、アプリの利用状況はほとんどの業界で増加または横ばいとなっており、小売は6.1%、ゲームは9.4%、従来型のファイナンスサービスは4.5%の伸びを示しました。
教育分野では、MAUが22.6%増と大幅な増加が見られました。そこでさらに詳しく分析したところ、この業界の成長はAIネイティブの学習アプリによるものであり、一方、従来の学習アプリのMAUは減少傾向にあることが分かりました。
有料チャネル経由のインストール数は全業界で増加
アプリの利用が堅調に推移している理由のひとつとして、あらゆる業界のブランドがユーザー獲得への投資を増やしていることが挙げられます。
有料チャネル経由のインストールの割合を前年と比較すると、インデックスに含まれる全業界で増加が見られました。スポーツ・予測アプリでは20.3%、従来型のファイナンスサービスとニュースではともに8.4%上昇しています。オンデマンドサービスとマッチングアプリでもそれぞれ5.3%増えています。

最も大きな伸びを示しているのは、予算が多く、競争が激しい業界であり、AIによるプレッシャーが最も強い業界ではありません。有料チャネル経由のインストールが増加している業界もあれば、オーガニックインストールが減少している業界もあります。いずれの場合も、構成比は有料チャネル経由のインストールへとシフトしており、これは理にかなっています。アプリはWebサイトよりもユーザー定着率が高く、ファーストパーティデータをより有効に活用してユーザー体験を向上させられるうえ、コントロール可能なユーザー獲得チャネルを企業に提供します。
AIディスラプションへの対応
私自身も含め、何百万人もの人々が、購買プロセスのあらゆる段階でチャットボットをますます活用するようになるにつれ、ブランドもこのようなトレンドに追いつくために方向転換を進めています。その好例として旅行業界を見てみると、AIを利用する旅行者に対するブランドの適応には、いくつかのパターンが見られます。
旅行業界ブランドは、AIだけでは完結できない作業に向けてプロダクト戦略を進化させています。例えば、Tripadvisorは「エクスペリエンス」への注力を強化し、従来のSEOに依存した事業分野からの脱却を進めています。
また、同業界のブランドはアプリとダイレクトチャネルに注力しています。Bookingの報告によると、モバイルアプリ経由で予約される宿泊日数の割合が増加しており、その大部分はダイレクトチャネル経由によるものです。
さらに、旅行業界ブランドはLLMと提携し、AIネイティブなプロダクト体験を構築しています。Pricelineは6月、アシスタント「Penny」を再構築し、10以上の専門エージェントを調整するエージェント型システムへと進化させました。このシステムは、業務の各部分に応じて複数の最先端モデルを活用しています。
「発見」のプロセスは急速に変化しており、その変化は今後さらに加速していくことが予想されますが、こうした変化の中でも顧客との関係は存続します。そのため、顧客との距離を縮める方法を見出すことが、現在マーケターにとって最も重要な課題と言えます。
業界別の詳細分析や領域ごとの推奨戦略を含む「AIディスラプションインデックス」の全文は、こちらからご覧いただけます。



